「朝目が覚めるとムカムカして気持ち悪いので、いつも憂うつな気分になります。起きてからも胃が痞えたり、もたれたり、何となく胃が不快でスッキリしません…」50代女性のご相談です。
このようなムカムカ、吐き気の病態は、コラム「ムカムカ、吐き気/漢方でのアプローチ」の中で記した通り、食べた物をドロドロにして下(腸)へ降ろすという、本来の胃の働きがなされず、胃に停滞するか、上へ逆流するために起こる病症です。そのため胃に停滞しているものを除き、食べたものを腸へ下ろすことができれば症状は落ち着くはずです。この働きを促す生薬が、半夏と生姜(小半夏湯)になります。
今回は、小半夏湯を基本にした方剤の中で特に汎用されるものを選び、その特徴をなるべく分かりやすく説明していきたいと思います。一般的な効能書きをみてもよく分からない、飲んでみたけれど効果がみられなかったという方はこちらを参考に再度検討してみて下さい。
☆小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)
小半夏湯は悪心(ムカムカ、吐き気、気持ち悪い)、嘔吐(実際に吐く)の基本処方で、心下(胃)の支飲(水)をとり除く。ここに茯苓を加えることで更にめまい、動悸などに使えるようになり、水の氾濫を治める。
妊娠悪阻の薬として有名ですが、全ての悪阻に効果があるとはいえない。
☆半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
上記の小半夏加茯苓湯に厚朴、紫蘇葉を加えたもの。どちらも行気作用(気を巡らす)があり、厚朴は胸や腹の張りをとり除き、紫蘇葉は気の巡りを良くして胃腸がスムーズに働くよう促す。
また梅核気(ばいかくき)といって梅干しの種がノドに痞えるような不快感がある時に汎用されるが、これを目標に服用しても効果のみられないことがある。その場合は漢方専門の医療機関へ。
☆小柴胡湯(しょうさいことう)、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
悪心嘔吐の他、胸脇苦満といい胸や脇腹が張って苦しい、食欲がない、体に炎症傾向がみられる(微熱、口内炎等をくり返す)時に使われる。
柴胡桂枝湯は小柴胡湯に桂枝湯を加えたもので、心下支結といって胃につっかえ棒があるような不快感に使われる。もともと体の弱さを持っているため、小柴胡湯のような炎症傾向があること、さらに疲れやすく、ストレスに反応して胃腸の調子を壊しやすい。
☆六君子湯(りっくんしとう)
小半夏加茯苓湯に人参、朮、甘草、陳皮を加えたもので、食欲不振、少食、下痢軟便など胃腸の弱さが際立つものに適応する。
☆藿香正気散(かっこうしょうきさん)
小半夏加茯苓湯に藿香、蘇葉、白芷などの発表剤が加わっているため、悪寒発熱を伴う急性胃腸炎などにも汎用される。六君子湯のような元々の胃腸の弱さはなく、暴飲暴食や急性胃腸炎などで一時的に胃腸に湿邪が入り、悪心嘔吐、下痢軟便がつづく時に。
勝湿顆粒の商品名でも販売されている。
補足
五苓散の一般的な効能書きに吐き気とありますが、五苓散は水逆といって、飲んだ水を胃で吸収できず反射的にピューっと吐き出してしまうような嘔吐に使います。子供にみられることが多く、ムカムカして気持ち悪いといった症状は強くありません。五苓散は口渇、尿不利のある水逆の嘔吐と覚ておいてください。
参考コラム:「ムカムカ、吐き気/漢方でのアプローチ」
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